2025/02/25 15:15
伸びやかな線にシンプルで大胆な構図、岩垣正道さんの版画はどこまでも自由です。年末に伺った際、今展のために作った新作を見せていただきましたが、色鮮やかでのびのびとしており、軽やかに版画の枠を飛び越えた作品は驚きと感動を覚えました。年を重ねるごとにより若々しくよりモダンに進化してする岩垣さんの作品。その秘密は一体なんでしょうか。

会期中に84歳になられる版画家の岩垣正道さんは岡山県真庭市にある毎来寺の住職で、鳥取県気高町の長泉寺に次男として生まれました。幼い頃から絵画が好きで、高校生の頃から油絵を描いていたそうです。48年前の入山をきっかけに版画に目覚め、今ではお寺は約300点もの版画が天井、ふすまと埋めつくされ版画寺と呼ばれています。アトリエにはメキシコのウッドカービンや芹沢銈介の図録など心打たれたものに囲まれており、美術館には度々足を運ぶそうです。また画家では内面の感情を絵に乗せて描き表す作風のゴッホやゴーギャンに影響を受け、フランスやタヒチに訪れた思い出を目を輝かせて語ってくれました。根っからの好奇心と行動力でいいものを足を運んで見に行き、場所の空気感まで体感し、作品に取り入れる岩垣さん。日々感じる新鮮な刺激が創作意欲に変わり、人柄がにじみ出たような愛らしく若々しくモダンな作品が産み出されるのでしょう。

「故郷をマティスのような鮮やかな色で描きたいんだ」と語っていた岩垣さん。冬の暗い山陰ではなく、年少期に行った夏の浜村海岸や、砂丘に沈む壮大な夕陽などの色鮮やかな風景が良き思い出として残っているそうです。また以前は版画という固定観念があり、黒一色だったそうですが、近年色の楽しさに目覚め、より自由になり今が一番楽しそうです。長年の経験と故郷を愛する想いから生まれた新作は、見ているだけで元気になり、私たちのくらしを豊かに彩ってくれます。

また今展では昨年ご好評いただいた「岩垣正道と3人の作り手たち」と題し鳥取県の木工作家朝倉さん、安藤さん、谷尾さんに額を作っていただいております。今回は昨年3人と共に毎来寺に訪れ、数多くの作品からそれぞれ選んでいただきました。岩垣さんの板画に合わせて朝倉さんは彫りを生かした仕事、安藤さんは経験に裏付けられた多彩な仕事、谷尾さん木の個性を活かした仕事と三者三様の額が出来上がりました。

岩垣さんの今が形になった作品が一堂に並ぶ「岩垣正道板画展」。作る喜びに溢れた作品をどうぞご覧くださいませ。
