鳥取たくみ工芸店

2022/04/16 18:30

 時代が変わっても私たちに愛され使い続ける暮らしの品々。そこには普遍的な美しさが宿っている。そして使えば使うほど美しさが増してくる。
 鳥取県の県境からほど近い岡山県美作市後山に、野間清仁さんの工房がある。見晴らしが良くついつい深呼吸をしたくなるとてもいい環境だ。野間さんは木工の道に入って約40年。指物・彫物・刳物・曲物・挽物までこなすベテランの木工職人だ。森の中で暮らし、自然に寄り添い木工作家として生きることを決意し約10年修行し、30歳を契機にこの地で独立した。

 仕事の転機となったのが数年前から住むことになった、この土地に根付き100年以上経つ古民家との出会いだった。蔵の中から古い曲げわっぱが出てきたそうだ。古い曲げわっぱは美作めんつと呼ばれこの土地で山仕事をするきこりが愛用していたもので、檜の香りの心地よく、冷めたご飯も固くならず美味しく味わえる名品だ。何かの縁を感じ、一度は途絶えためんつ作りを復活させた。出来た品を民藝店の店主が気に入り、日本民藝館展に出品したところ初出品ながら入選となった。土地に根ざした家で暮らし、自然に寄り添いながら仕事をすることで、普遍的な美を言葉として教わるのでなく、日々感じ身体にしみこませることで、自然と仕事に生かされたのだ。

 野間さんに昨年からパン切り台を作っていただいている。パン切り台は鳥取民藝の父・吉田璋也がデザインした代表的な品だ。作り手が高齢のため作れなくなり新たな作り手を探したところ、仕事の内容・技量・姿勢を考慮した結果、野間さんが適任だと感じお願いした。本来の形に戻すため材料は今ではなかなか手に入らない栃を使い、細部まで形を正した。出来上がりが素晴らしく日本民藝館展に出品したところ入選した。

 そんな野間さんの展示会が4月15日より鳥取たくみ工芸店で行われます。一度は途絶えた吉田璋也デザインの代表的な椅子をリデザインしていただきました。民藝品は飾るものではなく使うために作られた暮らしの道具です。そして使えば使うほど美しさが増し、親から子へ世代を超えて受け継ぐことが出来ます。野間さんの作った品々が一生の出会いになれば幸いです。