鳥取たくみ工芸店

2021/05/27 17:45

友とはどういった存在だろうか?いなくて大丈夫という人もいるし、必要不可欠ではないかもしれない。でも一緒にいて心地いいし、人生を楽しくしてくれる。
くじらさんこと谷口さんの布は友のようだ。
鳥取市福部町久志羅(くじら)のはずれにある木々に囲まれポツンと佇む一軒家。それがくじらさんの住居兼工房だ。春になれば庭木の新芽が芽吹き、夏の夕暮れにはヒグラシが鳴く、刻々と変わる自然の香りが感じられる気持ちのいい土地で暮らしながら型染の制作に勤しんでいる。
くじらさんと民藝との出会いは、最新のトレンドを追いかけていた服飾の専門学校時代にたまたま訪れた倉敷民藝館だった。そこで行われた館長の外村吉之助の話、佇まい、背後に掲げられた用即美という言葉に心打たれ、自然と涙が溢れた。民藝館の空間にいるだけで心地よく、その後も時間があれば遠方より訪れ一日中いたそうだ。そして嫁ぎ先の鳥取で型染に出会った。

くじらさんの布はいい意味でゆるい。おおらかで穏やかな文様が魅力だ。それは作る環境に理由がある。今の住宅兼工房は、畑を一から切り開いた。ログハウスを建てる職人である夫が家を建て、庭の木々を自ら植えた。当初は膝くらいの背丈ぐらいだったが、今では家の高さを優に超え夏には涼やかな木陰を作ってくれる。
そんな少しづつ手作りした暮らしの中で心が動いたモノや匂い、音から出てきた様々なイメージを自分の中でそしゃくし形を作り、紙に書き起こす。そして型を彫り、もち粉・糠・塩・消石灰で作った糊を置いて染色する。時間をかけてこの工程を経ることで徐々に自分が消えていくそうだ。自然と時に身を委ねることで自我が消えて作品として主張することのではなく角が取れて丸くなる。そして私たちの暮らしに寄り添う働きものの布になるのだ。

外村吉之助は代表的著書である『少年民藝館』で道具の重要性を説いている。作る人の利益を目的に手間を省き見せかけだけ良くした道具を毎日使っていると心まで粗末になってしまう。健康で無駄がなく威張らない美しさを備えてよく働く道具を毎日使うことが重要だと。そして道具のことを物言わぬ友達と呼んでいる。

くじらさんの鳥取たくみ工芸店で行う展示会「谷口恵美子 型染 くじら展」。
みなさまの暮らしに寄り添う物言わぬ友達が見つかったら幸いです。
どうぞお越しくださいませ。