鳥取たくみ工芸店

2021/01/07 12:26

木の器を作る「ドモク堂」の工房を訪ねました。ドモクは「土と木」。土は益子で陶芸活動をする妻の両親、木は湯梨浜町で制作する朝倉康登さん、3人のユニットで全国的に活動しています。

朝倉さんが作る木製品は、スプーンをはじめ、皿、調理へら、ランプシェード、家具など多岐にわたります。特長は、手仕事による細かい彫り痕が残る木肌の仕上げです。目の前でさくさくと包丁の柄を削る朝倉さん。やすりで磨くより、刃物で切った面のほうが水弾きがよく、食器に適していると言います。刃物で削った面が、光を反射するほど艶やかです。

 

湯梨浜町出身の朝倉さんは、中学生時代にスケートボードに夢中になり、専念するために埼玉県の高校へ進学しました。街の構造物と一体になって滑る、ストリートスタイルです。良い場所を見つけたらイメージ通りに滑れるまで、人のいない早朝に何度も通うこともありました。東京で働いていたころ、義理の両親から「物作りが好きなら、スプーンでも彫ってみては。」と勧められ、自宅で木のスプーンを作るのが日課になりました。大掛かりな設備が必要ないスプーン作りは、木工の入り口として最適です。そんな折、20113月に東日本大震災が起こり、Uターンを即決します。地元で働きながら、実家の倉庫で本格的に始めた木工が面白く、のめりこんでいきました。自己流で制作していたところ、知人の勧めで木工デザイナーの元で1年間仕事をすることに。木材の加工法を一通り覚え作家活動に戻ったとき、つい効率を優先してしまうことに気づきました。自分らしい作品とは、と自問した末に、手で彫って木の魅力を引き出す手法に立ち返ります。自身の暮らしで使いたいものをイメージし、とにかく作っては使うを繰り返す、というスタイルは、ストリートでのスケートボードのパフォーマンスに通じるところがあります。

 

木材は主に地元で切り出された広葉樹などの原木を譲り受けたり、買い求めたものです。大きな木でも使われずチップにされるのが現状です。たとえ曲がりや節があっても、木の特長をよく見て、加工する作品を思い描きながら適切に製材すれば、余すことなく使うことができます。県産材を使わなければ、といった義務感はありませんが、良い素材が自分の手を通して活かされるのであれば、と丸太を製材するところから木材に向き合います。加工できるまで乾燥させるには何年もかかるため、数年先に使う材料を貯蔵しています。

 

たくみ工芸店の依頼で、数年前から吉田璋也※1デザインのスツールの復刻を手がけるようになりました。先人の名作を再現する作業は学びが多いと言います。そして作りたいものがまだまだ無限にある、と。気負わず土地の素材と向き合い、伝統も受け入れ、心地よさを探る。軽やかな生き方は、民藝の本質を体現しているようで、今後の制作を楽しみに見守りたい作家の一人です。

 

1吉田璋也:1898-1972 鳥取の医師であり、新作民藝のプロデューサー。鳥取民藝美術館、たくみ工芸店、たくみ割烹店を開く。